Monday, December 3, 2012

「日本のアニメ事情に精通している海外の若きライターから、エッセイを頂きました!」










Essay by: Isaiah Child
エッセイ:アイゼイア チャイルド/翻訳: 神宮寺愛

ブライスと新世紀エヴァンゲリオンは似たような苦労と困難を乗り越えてきたのではないだろうか。ブライスの成長によって「ファッションドール」というステータスが確立し、ブライスに近い個性をもつ商品が数多く生産された。特にプーリップやおでこちゃんのようなドールは、明らかにこの新しい文化のニッチから生まれでたといえる。
ブライスの登場により、市場に溢れかえったありきたりのドールで満足することのできない、好みのはっきりしたドールのコレクターを充分に満足させることができた。
そして、それによってバービーやリカちゃんのようなドールの世界で君臨した女王たちは、ブライスが切り開いた新しい環境に対応していかなくてはならなくなったともいえよう。消費者にドールをカスタムする自由を与えたことによって、ブライスはただのドールではなくなり、本質をもつ「個」となったのだ。
格段のこだわりをもつブライスファンたちは趣味のスペクトルの端から端まで、サブカルチャーの端から端にいたるまで網羅することができる。その理由はブライスとは単にドールの総称であって、彼らのブライスはそれぞれ個々のブライスとして存在しているからであろう。ブライスは独自のファッションやスタイルを持ち、それをフィーチャーすることのできるドールであって、ただの洋服のセットが付随したおもちゃではないのだ。ブライスのファンにとって彼女は自己のイメージを投影することのできる存在なのである。そしてブライスは、いうまでもなく、どんなファッションスタイルをするか、どんな目の表情にするかで大変身を遂げることができる。野性的な魅力のオードリー・ヘップバーンのようになることもできれば、眩いステージの光のなかのリアーナのようにもなることも、目を血走らせた恐ろしげな栗山千明演ずる女子高生にもなれるのだ。
創造性という優れた才能をもつファンの手腕と愛情なしには、ブライスはこのような存在には成り得なかったであろう。この事実こそが現在ブライスが30年以上前に初めて発売されたときとは比較にならないほどに成功している理由なのである。
新世紀エヴァンゲリオンのクリエイターであり監督であった庵野秀明は「ふしぎの海のナディア」の二年間の制作を終えたあと、失意に苛まれていたと言われている。彼のファンの中核であるいわゆるオタクと呼ばれる層との結びつきが薄らいでしまったからであろう。彼は、オタクとは自らの世界に閉じこもったような存在であり、楽観的な世界観のある何かがない限り、意図的に自分の世界と他の世界を行き来できない人だと思っていた。新世紀エヴァンゲリオンを制作することによって彼らが殻から出て自己の存在を表現しはじめることを願っていたのだ。そのためには彼はきっかけが必要だったのだと思う。
綾波レイは革新的なキャラクターであった。彼女の冷ややかな印象の外観は10年もの間様々な作品のなかで追従され、ポップカルチャーの一つとなっている。冷淡で無感情、綾波レイ本人が「ドールような」とも形容する存在について、庵野秀明は綾波レイのコンセプトを「タナトス」という死の本能、死への欲望と語る。
彼女は碇シンジの母親のクローンであり、使い捨てることのできる存在であることを自分自身で認知している。タンクのなかには何百ものクローンが用意されており、時が来れば彼女とすぐに入れ替わることができるからだ。彼女は友人たちの命の危機を救うためには何も考えることもなしに自らを犠牲にするだろう。もちろん、彼女は自分がいなくなることを恐れるが、自分が犠牲になることは他の人々と繋がりをもつことのできる、特に碇シンジと繋がりをもつ最高の方法だと思っている。
彼女の冷淡な外見と情熱的で熱心に戦う内面のギャップはファンの心を深くつかみとった。彼女が実のところ誰なのか、彼女がどのように考え何を感じたのか。推測や想像が巡らされるなか、綾波レイと呼ばれるキャラクターは自分自身で起き上がり、スクリーンから出て、綾波レイという個の存在として歩みはじめた。彼女は人々を夢中にさせ、彼女の虜となった人々によってカスタマイズされた。彼女に捧げられた想いによって生まれ、また、パロディとして新しい一面を表現したり、シンプルにコピーされるなど様々であった。綾波レイはその10年ほどの間、思春期の男の子たちと女の子たちのミューズ、女神、憧れの女の子となった。彼女こそが、心の中に悲しみを隠している人々にとって何かを守ることと何かと繋がること、何かを変えることの意思を見せることのできるのだということを証明する見本であったのだ。
ブライスと綾波レイのファンの特徴は、どちらのファンも彼らのメッセージを届けたいと思っていることだ。そして彼らのブライスと綾波レイに対する愛情は、ブライスのロリータ系ドレスの新しいパターンをデザインしたり、エヴァンゲリオン初号機に乗る綾波レイのシーンをガレージキットで作成したりと、創造性に満ちている。愛情を表現し、それらを仲間同士で見せ合うことや会話を楽しむこと、そして情報を交換し、広めたりして、つながりを作っていくことも楽しみの一つなのだ。人々は、綾波レイのスーツをきたブライスや綾波レイのリボルテックなどコラボレーションによって生まれた作品について、新しいドールの誕生とも、エヴァンゲリオンと言うビジネスの功績とも言うであろう。しかし彼女らの真のファンはこれがただのコラボレーション作品でないことをわかっている。なぜならこれは二つの世界が一つの個として生まれるまたとない瞬間、ブライスであり、綾波レイである、たったひとつの「個」の誕生なのだから。


注意:
この著者により表現された観点や見解、また書かれているコメントは全て著者の個人的な見解であり、CWCやジュニームーンまたは、ブライスドール公式サイトの観点や見解、立場を反映しているものではありません。


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